ドミトリエフ(ペア競技の展望)
2016年7月4日
オリガ・エルモリナ
(前半略)
― ボストン世界選手権のペアの戦いの様子はきっとご覧になっていましたよね。お気づきになったことは?
ペアは複雑になりました。もう少ししたら、私たちは別の光景を眺めることになるかもしれません。ペア競技は波がうねるような発展をしていますから。今のトップ選手たちが去った後どうなるかはわかりません。しかし、現段階で進化は止まらず…
たしかに、カナダのデュハメル/ラドフォード組は表現力や動きの洗練度、質が十分ではありません。しかし、サイドバイサイドの3回転ルッツや4回転スロージャンプを跳びます。
中国のウェンジン・スイ/ツォン・ハン組は世界選手権でミスをやらかしました。しかし、それとともに私が指摘したいのは、このペアが驚異的な姿でジュニアから上がって来たこと、そして二人があのとき見せていた高難度のエレメンツがこの先仕上がり、プログラムが強化されるということです。
アリオナ・サフチェンコ/ブリュノ・マッソ組についてですが、私はアリオナには非常に敬意を払っています。しかし、それでもやはりボストンでは、ジャッジたちがドイツペアを大きくサポートしたと考えています。私はロシアペアのコーチとしてではなく専門家として言っているのです。あの子たちが短期間でものすごい仕事をやり遂げたことはとても嬉しく思いますが、その滑りをロシアのストルボワ/クリモフ組と比べることができるでしょうか?クセニアとフョードルの方が客観的に見ていい滑りをしています。ドイツペアの世界選手権での滑りは少しプリミティブに見えたし、単純でした。同意してほしいのですが、アリオナは何度も世界選手権を制したチャンピオンとして、また4度のオリンピックの経験を背負うスケーターとして、皆から他とは違うものをたくさん期待されています。4回転ツイスト、そしてどうやら4回転スローも視野に入っているようです。しかし、世界選手権では、すべてをまとめてすべてを一度に披露するということができませんでした。それなのに、どこからあんな高得点が出てくるのでしょうか?
ボストンの大会が終わってはっきり分かったことがあります。それは、現代のペア競技には偶発的なペアなどありえないということです。スピン、リフト、デススパイラル、スロージャンプ、ソロジャンプといったエレメンツの総合的な複合体がこれだけ難しくなった以上、たった半年でペアが出来あがって、どこからともなく「偶発的な人間」が現れることなどもうありません。すべてを自分のものにして、仕上げて、組み立てるには年月が必要です。また、ライバルに先んずるには、新たな質的飛躍に乗り遅れないための技術的ストックを持つ必要があります。そのストックとは、今日わたしたちが眺めているものです。
というのも、シングル競技ではいったい何が起こっているでしょうか?以前なら4回転ジャンプを跳んだスケーターを指で数えることができたし、バンクーバー五輪ではライサチェクがまったく4回転を跳ぶことなく優勝しました。それが今ではかなりの数の子たちが4回転を1本ではなく、数本プログラムに入れています。
それと同じことがペア競技にも起こっています。我らが五輪チャンピオン、タチヤナ・ヴォロソジャル/マクシム・トランコフ組は、ソチ五輪では皆の手の届かないところにいたし、今も滑りは悪くなっていません。以前と同じように素晴らしい滑りをしています。ただ、二人が試合に出ていない間に他の選手たちが先へ進んだのです。この点でターニャとマクシムにとってはかなり難しくなるでしょう。しかし、始まってしまったプロセスをどうやって止められるでしょうか?「4回転スロー、4回転ツイスト、3回転‐3回転のコンビネーションジャンプをやらないでください」と言いますか?でもそれは男子に4回転を、あるいは女子に3回転半を禁じるようなものです。「美しく滑りなさい!」とアドバイスしましょうか。でもそうすると、フィギュアスケートはスポーツ種目としてモデル(ショー)ビジネスになってしまいます。
準備できていない選手は深刻なけがをする可能性があるため、難しいエレメンツの習得には賢明な態度で臨む必要がありますが、それはまた別の問題です。こういう難しいことは、準備できていないのにアタックしてはいけないのです。アタックは技術的に準備できていなくてはいけない。量で勝負しないことです。理解し、正確な知識を持ち、ある一定の練習をするべきで…アレクセイ・ニコラエヴィチ・ミーシンは、多回転ジャンプ習得の独自のシステムとメソッドに長年取り組んできて、今やそれは世界中で用いられています。これと同じことがペアにも起こるべきです。
― あなたはオリンピックで2度優勝しています。すでにタイトルを持ちながら更に現役を続行している選手に対して、ご自身の経験からどのようなアドバイスをしたいでしょうか。どこからモチベーションを汲み出せばいいのでしょうか?
答えは簡単です。おそらく、幸せなことに、スポーツの昔の功績というのは、すべて過ぎ去ったことという意味において考慮されません。続行という目標を立てるのなら練習をする必要があります。すべてはその人自身、その願望、挑戦にかかっています。
1998年の長野オリンピックで優勝した後、私とオクサナ・カザコワは4回転スローを習得して、それを世界選手権で披露しました。当時、このエレメントは今ほど必要なものではなかったかもしれません。しかし、もし選手が大きなものを志し、続けたいと願い、自分をチェックし、そして自分に力があると感じるならば、彼を止めるものは何もないのです。
<原文>
http://fsrussia.ru/intervyu/2228-artur-dmitriev-v-pervyj-raz-po-kanatu-proshel-ne-zadumyvayas-a-potom-raz-oj-vysoko.html
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