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ロシア語自習室

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ズエワ<メリルはシェヘラザード姫(4)>

この回はかなり難航しましたが、なんとか山は越えてあと1回で完結です。インタビュアーが持ち出したズーリンコーチの話は、「ズーリン(3)<選手は兵士であるべき>」をご参照いただければ。ズーリンの戦士になれなかったカツァラポフは果たしてズエワの戦友になるのでしょうか?トライアウト終了まであと1週間ですね。




必要なのは戦士ではなく戦友

 ― まさかスケート靴で考えを伝えるわけじゃありませんよね?

 子どもと大人のスケーターは何が違うと思う?バランスよ。鋭い刃のスケート靴を履いて片足で立っていても、表現力の中心は頭で、その頭はスケーティング技術次第。(※表現と技術は)ちょうど振り子のバランスみたいなもの。だから、考えは有機的に伝えるの。技術が良くて、舞台芸術に熟練していれば可能よ。

 ― スケート靴なしで何かを表現することはできないと、いつか仰っていましたね。

 ステージや床の上では飛ぶようなプログラムを創ることはできないわ。氷のあるところが空間なの。

 ― クラシックバレエだけでは十分じゃありませんか?

 十分だけれど、それはまったく別物だし、フィギュアスケートでやっていることとはまったく違うわ。フィギュアでは、例えば、静的なものは見られない。でも、本当に飛ぶところをフィギュア以外で目にすることもないでしょうね。

 ― 生徒さんたちのバラエティー度は?

 デーヴィス/ホワイト組はとてもバラエティーに富んだスタイルよ。ワルツに、インド舞踊に、クラシックの『ジゼル』に、ドラマチックなノートルダム。ヴァーチュー/モイア組は、たぶん、クラシックのアダージョの二重奏をもっと深く伝えられるわ。ほら、はじめテッサは『おかしな顔』(スタンリー・ドーネン監督が1957年に制作したミュージカル映画『Funny face(パリの恋人)』をモチーフにしたプログラム)だったのよ。主演はオードリー・ヘップバーンで、テッサの大好きな女優。私も大好き。そして、その次が『カルメン』。テッサが男たらしになるという大胆なイメージチェンジでショックを与えた作品ね。

 ― 生徒たち本人は、こんなに急激に変わることを恐れなかったのですか?

 いったい何を恐れることがあるというの?

 ― では不安は?どう成功させるか、どう受けとめられるかという不安は?

 自分がやったとおりに受け止められるものよ。私たちはゼロから仕事をするわけじゃない。モダンダンスとかフラメンコとか、独自の動きを持った専門家を招いてきたわ。私自身もプロの振付師だけれど、スタイルを変えるにはもっと専門化することが不可欠。だって、質を創る細部はその道に精通した人間が持ち込まなくてはいけないもの。

 ― 問題はありましたか?

 あったわ。グラズノフのバレエ音楽『四季』をテーマにしたプログラムにだって問題があった。テッサとスコットにあれほど似合っているのにね。彼女たちにこれが似合わないなんて想像するのもおかしいわ。だってこれは男と女のテーマでしょ?あの二人のテーマよ。でもやることは山ほどあったし、変更もたくさんあったの。

 ― お話から察するに、あなたは継続と規律という言葉がお好きなようですね。

 自律よ。時間どおりに仕事に来て、練習日は一日も休まないとしても、病気でなければだけれど、私が休暇を取るのは1年に6回じゃなくて1回だけ。そこに意味があるの。

 ―でも、アイスダンスはクリエイティブなもので、ある種の“ぐうたら”を内包しているのでは?脳みそをみずみずしくしておくために。

 それが必要な人もいるかもしれないけれど、私はその反対。私の脳みそはいつもみずみずしいわ。朝早く起きて、ジョギングして、ベジタリアンで。

 ― その創造と規律の結びつきは、子ども時代からですか?

 私が思うに、誰もが自分がなりたい人間になるし、自分が選ぶ生き方をしている。規律正しいコーチをそれほどお手本にしたわけじゃなくて、生徒たちにとって規律正しいコーチでありたいといつも思ってきたの。彼らから愛され、尊敬されるようなね。

 ― 選手たち自身は、規律正しくない人間でいられる可能性がありますか?

 あるけれど、チャンピオンになるのはそういう人じゃない。だから、そのことを選手に説明することが大切なの。彼らに規律を要求するのではなくてね。

 ― アレクサンドル・ズーリンが昔を振り返って、自分はクリエイティブだったけれど、コーチが自分に圧力をかけてくるのは認めなかったと言っていました。のちに彼自身がコーチとなり、自分には戦士が必要だという話までしていました。

 私に戦士は必要ないわ。私に必要なのは戦友よ。

 ― 10年にわたる仕事の上での友人ですか?

 ええ。

 ― サッカーには、チームの構築に3年かかるという迷信がありますが。

 あるカナダの傑出したペアが、私の目の前でもっと短期間で創られたわよ。ジェイミー・サレー/デヴィッド・ペルティエ組のこと。それぞれ別のペアを組んでいたけれど、パートナーが怪我をして後退してしまって、それで一緒にやることになったの。二人はきっと動きのリズムが同じだったのでしょうね。なぜなら、ペアのすべての大技をとても素早く、とてもクリーンに、とても正確にぱっとできるようになったもの。だから、この二人からは怪我の方がどこかへ消えてしまって、数えるほどの時間で偉大なスケーターになった。

 ― 単なるペアではなく、オリンピックチャンピオンが短期間で創られたわけですね。

 彼らの例を見て、準備と負荷に関する自分の認識をすっかり変えたわ。そのとき私はペア歴の長いウィルツ/ウィルツ組のコーチをしていたから、なおのことよ。

 ― ペア歴の長い?では、あなたの辞書に「使用済み材料」という概念はありますか?

 いいえ。

 ― 否定しながらも、言葉につまりかけましたね。

 それは、私に関することではまったくないからよ。

 ― ジェーン・トービル/クリストファー・ディーン組は、もし2回目の現役復帰をしていたとすれば、あなたのところへ来たようですが。

 来たか、来なかったかは分からないわ。伝説的なカップルで、最初の最初からベティ・キャラウェイコーチと一緒に仕事していたし。

 ― 現在の視点から見ても、彼らはやはり天才的ですか?

 イエス。私にとってはイエスよ。チャンピオンはそれぞれ何か面白いものを持ち込むの。ナタリヤ・ベステミアノワ/アンドレイ・ブキン組のように、莫大なエネルギーをともなったドラマ性。マリーナ・クリモワ/セルゲイ・ポノマレンコ組のように、リフトのイノベーションとプログラムの思想性。あるいはオクサナ・グリシュク/エフゲニー・プラトフ組のように、理想的なテクニックと、スケーティングスピードと、動きのオリジナル性などをね。リュドミーラ・パホモワ/アレクサンドル・ゴルシコフ組は、アイスダンスがスポーツだということを完全に証明したし、彼らのおかげでこの競技は五輪種目になったのよ。

 でも、復帰前の1984年のサラエボで、あなたはオリンピックチャンピオンを見ることができるわよ。トービルとディーンが『ボレロ』を引っさげてきたときで、あなたも違いに気づくわ。トービル/ディーン組は、アイスダンスのプログラム構成の完全に独立した見え方であり、絡み合いであり、動きの注ぎ替えとでもいうか、競技用のステップひとつもなしで…こんな演技はまったくなかったわ。

 私は同じリンクで練習していたから、彼らの練習ぶりを見ていた。私が自分の生徒たちとプログラムを用意し始めると、トービルとディーンはひとつのエレメントの練習を始める。私がすでに振付を終えると、トービルとディーンは同じエレメントを練習している。私たちが休憩して戻って来ると、トービルとディーンはまさにそのエレメントに磨きをかけているの。約6時間よ。これはいったい何だと思う?これは、理想的でありたいという願望。彼らは私にとってお手本なのよ。

 ― ここでもう一度ズーリンの思考と観察を見てみましょう。彼は、トービル/ディーン組以上に“並行して”滑ることは誰にも決してできないだろうと確信しています。

 私が今あなたにお話したそのエレメントは、まさに並行性と関係していたの。もしこの世界に、時間をかけて時間をかけて、完全の上にも完全を重ねた出来映えを実現するカップルがさらに現れたら、そのカップルはトービル/ディーン組に迫るかもしれないわ。

 ― ズーリンは、今の世代のカップルには自分のような耕作者はいないし、トービル/ディーン組のようなカップルもいなかったと言っていました。あなたが育てたオリンピックチャンピオンたちは…

 …とてもたくさん練習しているわ。とても、とてもね。こう答えるわ。メリルとチャーリーはラテンダンスがうまく行かなかった。リズムも動きもつかむのがとても難しくてね。何もかも身につける必要があったの。専門家を招いたわ。メリルとチャーリーは6時間とか8時間ぶっ続けで練習したの。動きを習っては定着させて、新しいことを習っては定着させて。そのあと氷上練習に入ったわ。

 ― 我が国の選手たちは、コーチに与えられたことをやって、自分でイニシアチブを発揮することはないと言われていますが。

 私の生徒たちはトレーニングが終わるといつもこう話しかけてくる。「マリーナ、僕たちが他にやらなくちゃいけないことは何?言ってくれればやるよ」とね。もし課題が見えていれば、動きのスピードやあるいは柔らかさが足りないと言うわ。さあ、私は言ったわよ、今度はあなたたちがやりなさいって。

 ― 彼らをトレーニングから追い払うのですか?

 追い払うのではなく、勧めるの。より正確には、私の言うことを聞いて今日は休みなさいと言うのよ。そして翌日、私の言うことを聞いてもう一回やった方がいいわねと言うの。そんなふうに毎日やって、そして一度のオリンピックで2つのカップルが金メダルと銀メダルを獲って、次のオリンピックでもう一度2つのカップルが…

 私は、彼らの準備をメンタル面でもフィジカル面でも整えられたことがとても嬉しいの。フィジカル面はとても大変で…いいえ、大変というのは違うわね。大変なのではなく、創造的にボリュームが大きいの。やっぱり大変なのは、2週間同じことをやって、計画に沿ってやってきて、そのバリエーションや細部がすべて交換になってしまうとき。フィジカル面の準備というのは、実際にはプログラムの準備と似ているわ。計画はもちろんあるけれど、細部がよりいっそう重要な役割を果たすの。


 (つづく)




<自習メモ>
сорАтник (雅)戦友/盟友/同志、仲間
повЕрье 迷信
схЕма =scheme
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