ズエワ<メリルはシェヘラザード姫(2)>
「ねえ、メリルがどんな子だったと思う?」
― 膨大な数のカップルを抱えて、集中力が散漫になりませんでしたか?
膨大な数ではなかったわ、作ったプログラムは年間200ぐらいよ。子どもも大人も、ダンサーもペアも、モンレアルからもトロントからも生徒がやって来た。それが私の成長につながったの。
― でも、誰かを優先することなしにどうやって成長できるのですか?
筋力トレーニングをしたら強くなった、みたいな感じね。その後、私は選手たちに大きな負荷をかけていったけれど、選手たちの方もいつだってより強くなった。私がリンクで集中する時間が増えれば増えるほど、質は高くなったわ。
― ペアでオリンピックを2度制したエカテリーナ・ゴルデーワ/セルゲイ・グリンコフ組にスタイルを考え出したのは、あなただと言われていますが。
二人がどういう点でより良く映るようになるかが、私には見えた。それだけよ。
― それはスケーターと話し合うのですか、それともコーチがすべてを見てとるのですか?
そうねえ、私はタカヒコ・コヅカと仕事をしていて、彼が12歳の男の子だったときからもう9年になるけれど、彼は毎年私のところへ来ている。なぜかというと、私たちはフィギュアスケートで美しさを利用するのではなく、美しさを見せるからよ。美しさに気づき、成長させ、ときには引き出すこともあるの。
いつだったか、チャーリー・ホワイトのお母さんから「息子の魂を掘り当ててくれた」と言われたわ。彼は小さなホッケー選手だったけれど、表現豊かなフィギュアスケーターになった。しかも、それは最近のこと。自分は陽気なスポーツ少年ではなく、自分だけの特別な魂を持った人物なのだということを、ごく最近になって本当に理解したの。
― 彼はそれを、受け入れたのですか?
彼は開いたのよ。それはどんなプロセスかって?私がこうしなさい、ああしなさいと言いに来るとか?いいえ、それは共に成長し、創造するプロセス。毎日、毎時間、私たちはお互いを知るの。
ねえ、メリルがどんな子だったと思う?メリルとチャーリーは「アイスダンサーとしては身長が小さい」と書かれてきたわ。小さいことには同意するわよ、もちろん。でも、私には彼女が、何よりもその風貌においてユニークであることが見えていたの。深いエレガンスと、内側からの優美さを持ってる。よく見てご覧なさい、彼女はひとつもわざとらしい動きをしないし、彼女にわざとらしい感情を見つけることはできないわよ。彼女はとても…
― 飾り気がない?
そう。
― おとぎ話の人物のように?
ええ、それに彼女はとても稀な人よ。稀な風貌のね。私はいつもこう言ってるの。「メリル、あなたは私の小さなお花よ」とね。
― 声もそうですよね。高くて、それなのに子守唄のようで。
でも、彼女はいつも身長のことで苦しめられてきたわ。自分のことをとても小さいと思っていて、そのうえ、当のジャッジたちが問題を大きくしてしまって。身長のせいで思うような順位は取れないかもしれないと彼女に言ったのよ。子どもの頃からそう吹き込まれていたわ。でも、私はいつも別の角度から彼女を見ていたの。
― それでも、あなたはこう言いましたね。メリルとチャーリーには、テッサとスコットのようなスーパーハーモニーはないと。
ええ、それは本当にそのとおりよ。勝利への道が違うの。テッサとスコット、それにカーチャとセリョージャ(ゴルデーエワ/グリンコフ組)はハーモニー、もしくはアメリカ人が言うところのケミストリーの道なの。よく見てみてご覧なさい、二人がリンクへ出てくると、まだ音楽が鳴っていなくても、二人がまだ一歩も踏み出していなくても、そこにはもう絵があるわ。あとは皆さんが楽しめるような調子で、その絵をお見せするだけ。
― 私のような素人からすると、絵のように見えるのはまずメリルとチャーリーです。ヴァーチュー/モイア組は、ティーンエイジャーの服が似合う普通のカナダの大学生です。一方、メリルは本当に芸術的長編小説から抜け出てきたようで、彼女をエスコートするちぢれ髪の男性もまたその登場人物のようです。
そう言ってもらえて嬉しいわ。とっても。メリルとチャーリーの氷上での相互関係や二人のドラマチックな性質に、私は専門家としていたずらに取り組んできたわけではなかったのね。
私が初めてメリルを見たのは彼女が13歳のときで、ブロンドの髪を短くカットしていて、バランスが悪かった。チャーリー君は12歳で、髪の短い男の子で、色は覚えてもいない。覚えているのは、私が彼の髪を伸ばす必要があると言ったとき、お母さんにとても喜ばれたことね。チャーリー本人は今でも自分のたてがみを伸ばすのが好きではないの。でも、目だって、たてがみから引き離すことはできないわ。それぐらいばっちり調和がとれてるのよ。
その頃はまだデトロイトの「スケーティング・クラブ」のコーチについていたのだけれど、そのコーチが二人にプログラムを作ってやってくれと頼んできて。アイスダンス用だけでなく、チャーリーのシングル用のプログラムもつくったけれどね。コーチがなぜ私を選んだのかは今でもわからない。もしかすると、私が二人を気に入ったことに気づいたからかも?まぁ、そのあと私たちはメリルの髪型を入念に作ったわ。そして彼女は独創的な、とても稀な風貌の謎めいた女性になったの。
― とても独創的です。おとぎ話の中に彼女を見ているようで、でもそのお話がどんな終わり方をするのか分からないような。そういう美女のままでいるのか、それとも王子の喉を噛み切るのか。
そうね、シェヘラザードね。彼女のお話だわ。
(つづく)
<自習メモ>
грИва たてがみ;長髪 (львИная грИва)
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