<プログラム作りは深淵に飛び込むようなもの(7)>エフゲニー・プラトフ
この後、自分はアメリカ人かロシア人か?というテーマへ続き
次回が最終回になります。あともう少し…!
映画ファン、芸術家、演出家
― 氷上の俳優あるいは氷の演出家であるためには、日常生活において他の人よりも物事を鋭敏に受けとめる必要があるでしょうか。言いかえると、芸術家は空腹であり、芸術家は不幸であるべきでしょうか。
その通りです。すっかり満腹で何不自由ないときは、いくらか堕落してしまい、あまり良い結果が出ません。でも、フィギュアスケーターに限らず、スポーツ選手は他とは異なる人間です。感覚と世界観が違います。ふつうの人なら数ヵ月間入院する怪我をしても、私たちは2~3週間で立ち上がり、試合に出場し、メダルを獲ります。私たちには違うアプローチとメンタリティーがあり、(ひとつのことに)より焦点を合わせるわけです。人生の何かが手助けをするのか(?)…私はそうは思いません。スポーツ選手というだけで、すでに多かれ少なかれユニークな人間なのです。
音楽を理解するためには、私たちは常にバレエ、ミュージカル、ショー、オペラを観に通っています。常にアイデアを拾っています。私の場合、ブロードウェーのショーが行われるニューヨーク近郊に住んでいるので、なおのことです。あと、映画も私の創造を手助けしてくれます。映画が大好きなんですよ。
― どんなものがお好きですか。
文字通り、片っぱしから見ます。家族とよく映画館へ行きます。「オスカー(※アカデミー賞)」が大好きで、いつも本当に待ちきれないんです。ノミネート作品はできるだけ全部見て、自分なりの順位をつけるようにしています。今年の『英国王のスピーチ』は、ナンバーワンの映画ですね!天才的です!私は歴史ものとSFがとても好きなんです。SFは日々の生活とその繰り返しを忘れさせてくれます。撃ち合いや殴り合いのシーンは、ロシア映画だけでなく、アメリカ映画にもあふれています。でもこれはSFであり、フィクションですからね。
― 「オスカー」とヨーロッパの映画祭とでは、オスカーの方がお好きですか。
ええ、おそらく長いことアメリカに住んでいるからでしょうね。オスカーの方がずっと身近だし、ほとんど(の俳優や監督を)知ってるでしょ。ヨーロッパの方は、ほとんど誰も知らないんです。
― ヨーロッパの映画祭で上映される作品は、広く見てもらうためのものとは全く限りませんから。
もちろんです。でも、時にはそういう作品を見るのも好きです。カンヌ国際映画祭でどの作品がグランプリを獲るのか、どんな音楽が使われるのか興味があります。これは、仕事のために必要だからではなく、私の趣味です。
― ヨーロッパ人は、しばしば社会的テーマに多くの注意を払いすぎると思いませんか。あたかも、かつて力になれなかったり干渉しなかったことに対して、罪を感じているかのようにです。ひとつ例を上げると、第60回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した、『4ヶ月、3週間と2日』があります。ルーマニアのチャウシェスク政権時代を舞台に、事件が展開していく作品です。それに、これは映画の中だけのことではありません。ソビエト時代というのは、さまざまな分野で切実な(実際に存在する)テーマです。
その時代とその体制をこき下ろしたがる人がたくさんいます。当時はいろんなことが起こりましたが、良い点もあったんですよ。みんなが微笑んでいたように思いますよ。今ではすっかり構造が変わり、資本主義になって、ロールスロイスに乗っている人がいるかと思えば、自転車を買えない人もいます。この格差は(人々を)打ちのめします。国家のレベルが上がれば、人々は再びもっと微笑むようになるでしょう。給料がもらえなくて、公共料金を払えなくてね。今のはジョークです。そんなふうに成り立っている国はひとつもありません。
共産主義体制下では、もっと良くなるなんて分からなかったし、他のやり方があるかもしれないなんて分からなかった。私たちには“それ”が与えられ、そこで私たちは喜び、みんな微笑んでいたんです。
(つづく)
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