<氷上ミュージカルをプロデュースしたい>ステファン・ランビエル
スイスの『アート・オン・アイス』を取材した
ロシア人記者による単独インタビューのようです。
小塚崇彦をはじめ、今回の四大陸選手権に出場している
選手たちについても語っていますので
取り急ぎその部分から訳していきます。
ステファン・ランビエルがファンに事欠いたことはない。だが、現役を退いてはじめて、このスイス人がフィギュアスケート界でどのような位置を占めていたのかが明らかになったのではないだろうか。「伝説」「スター」「ユニーク」 ―― 新聞や雑誌は見出しをつけることを惜しまない。そしてそれらは全て実際にその通りなのだ。我々『チャンピオンシップ.ру』の記者2人も、このスイス人スケーターと差し向かいで話をしたが、やはりこの自明の理については議論の余地がないと思う。
大腿筋の怪我による痛みは、復帰を困難にする原因となり(?)、このスイス人をアマチュアスポーツから追い出した。健康状態は彼が1番になることを許さず、その他のどんな順位も、世界選手権二度の覇者を満足させることはできなかったのだ。
しかし、アマチュアを引退したということを除けば、ランビエルは以前と同じように氷の上にいる。別の動機からではあるけれど。
彼が参加することで、ひとつのアイスショーが別のものへと替わる。イタリア、日本、フランス…そして最後の公演は特別なもの。スイスの各都市を廻るアート・オン・アイスだ。彼の新しいフリープログラムになるはずだったタンゴが終わると、故郷の観客たちはランビエルを自分たちの英雄として、万雷の拍手でもって歓迎した。
「このプログラムを構成しているもが何なのか、理解するのはたぶん難しいと思いますが、これは“痛み”なんです。すべてのものは壊れ、砕け、起こり得ると、あなたが感じているような。そして僕は、あなたの心に時として大きな痛みが起こり得るということを、実際にお見せしたいのです」と元チャンピオンは説明した。
― ステファン、あなたは以前のレベルでトレーニングを続けているのですか?
毎日氷の上に立っています。僕の身体には負荷が必要ですから。でも、一定の時間が経つと痛みが出るので、ジャンプをたくさん跳ぶことはできません。滑ることができるのは40分間で、それ以上は無理です。
― 今でもその痛めた筋肉で、氷の上に立たなければいけないのですか?
今でもマッサージと、筋肉強化のためのエクササイズをしなければいけません。それにサポーターを履いています。痛みが強いときには薬を飲むこともあります。
フィギュアスケートは僕の人生です。だからやめたくないんです。ただ、試合に出るためにはこのレベルでは不十分です。1日40分のトレーニングでは足りません。
― でも、前よりは良くなったんでしょうか?
ええ、良くなりました。秋には6週間まったくリンクに出なかったんです。再開したときは大変でした。まだ痛みが残っていましたから。でも、また氷の上に立って自分を表現できるというのは素晴らしいことでした…僕はフィギュアスケートのここが好きなんですよ。このスポーツはジャンプだけじゃないんです。もちろん、トレーニングではジャンプの練習もしますけどね。
― では、今でも4回転ジャンプの練習をしているのですか?4回転+3回転トゥループも?
はい(微笑)。ショーで4回転を跳びたかったのですが、こういう照明の中では難しく、ストレスが大きすぎます。そこに加えてテレビカメラが入ると、緊張を伴います。でも夜の公演では、もし自信があればトライしたいです。
― 今はまたスイスのピーター・グリュッターコーチの元でトレーニングしているのですか?
チューリッヒにいるときはサロメ(筆者注:ランビエルの振付師、サロメ・ブリュンナーのこと)と、ジュネーヴにいるときはピーター先生と練習しています。それほど真剣なトレーニングではなく…より正確に言うと、しっかりしたレベルの(?)トレーニングではありません。彼は僕の親友で、僕は彼とトレーニングするのが好きなんです。昔を思い出させてくれます。今は一緒に新しいステップと新しい動きを練習していて…グリュッター先生は、他には誰もできないことなんですが、僕が何かを習得するようにし向けてくれるんですよ。もし彼がいなかったら、僕はすでに出来ることしかやらなかっただろうと思います。
ローザンヌでは自分でトレーニングをし、マジダ・シャルル(※ Majda Scharl 正しい発音はわかりません)と身体づくりをしています。というわけで、チームはそのままなんですよ。
でも、アメリカのヴィクトルとガリーナ(筆者注:ヴィクトル・ペトレンコとガリーナ・ズミエフスカヤのこと。2008年の夏、ランビエルはこの2人のコーチの元へ移り、引退までの短い時間を過ごした)のところも良かったです。僕たちはたくさん練習し、彼らはまるで自分の子どものように僕に接してくれました。僕はヴィクトルの家族と一緒に住んで…いい時間でした。でも、僕の健康の問題で、100%の力で練習することはできませんでした。
― 試合に出場しなくなった今、シーズンの行方に注目していますか?
ええ、グランプリシリーズのいくつかの演技を「YouTube」で見ました。それからヨーロッパ選手権は、テレビ放映されたものはほとんど見ましたが、ちょっとがっかりしました。レベルが低かったと思います。あなたがあのスコアをどう思われているかは分かりませんけれど。それに、女子の演技が良くありませんでした。
― ヨーロッパの女子のレベルは、アメリカやアジアに比べていつも低かったと思いますが。
ええ、でも、今年は…(頭を振る)
― では、男子シングルは?
僕の見たところでは、パトリック・チャンがとても興味深いですね。それから、日本の小塚崇彦がとても強い。彼は素晴らしい滑り(※滑らかさ)と良いジャンプを持っています。ただ、彼は自分の“手”に取り組む必要があります。手を使った(※ジェスチャーの)表現に。そうすればとても良いフィギュアスケーターになると思います。彼には高い潜在能力があります。
― ブライアン・ジュベールはどうですか?
ブライアンは僕のライバルでした。彼もまた、強い性格を持った優れたスケーターです。このように長くトップの座にいることは難しく、これは尊敬に値することだと認めなくてはいけません。僕と彼は別々のタイプに属するスケーターですが、これは面白いことでもあります。彼はパワフルな側面の、僕は別の有利な特質を持っていると思います。氷の外ではとても良い友だち同士ですよ。
― あとはアイスダンスとペアですね。
アイスダンスは、今僕のお気に入りの種目なんですよ。好きな選手はいっぱいいますが、お気に入りはテッサ・ヴァーチュー&スコット・モイアです。テッサはとてもエレガントだし、スコットは非常にハイレベルなスケーティング(技術)を持っています。もし彼に何か新しい動きをやって見せたら、彼はすぐにそれを再現できると思います。これはすごいことです。
でも、僕はホフロワ&ノヴィツキーも、ファイエラ&スカリも、カー姉弟も、デイヴィス&ホワイトも好きなんですよ。それからドムニナ&シャバリンも。ただ、男性(※シャバリン)が新しい試合に向けて、完全な状態で怪我から復帰できるかどうかは分かりません。
ペアについてですが、ムホルトワ&トランコフはもちろん僕の好きな組のひとつで、アリョーナ・サフチェンコ&ロビン・ショルコヴィーも好きです。それから、カナダのデュベ&デイヴィソンもお気に入りなんですが、彼らは安定性に欠けます。いつもクリーンな演技というわけにはいきません。すべてが素晴らしいときもあれば、あまり良くないときもあります。
― これからの計画についてですが、この「アート・オン・アイス」や「ドリーム・オン・アイス」のようなショーへの出演を続けるつもりですか?それとも何か自分のことをするつもりですか?
自分自身のショーをやろうと考えています。あなたが「ランビエル&フレンズ」のことを聞いたことがあるかどうか分かりませんが、僕は去年すでにバーゼルで2回、ダヴォスで2回このショーをやっています。もう一度できるかどうかエージェントに聞いてみるつもりです。自分で出演者を選びたいと思ってるんですよ。親しいスケーターがたくさんいますから。ショー用のナンバーも用意できればとても面白いでしょうね。そしていつか、僕がもう少し年齢を重ねて経験を積んだら、氷上ミュージカルをプロデュースしたいです。何かありきたりじゃないものを。
でも、今はまだその話をするには早すぎます。主催者側の問題に専念する時間がありません。プロデュースの仕事をすると出演ができなくなりますよね。だけど僕は、あと何年かは自分が滑りたいんです。
2009年2月5日
ナジェジダ・バラノワ、タチヤナ・ゲイクマン
チューリッヒより
写真:artonice.com
<原文>
http://www.championat.ru/other/article-29505.html
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