ちょっと息切れしてきました

全4回と書きましたが6回ぐらいになりそう…(完走できれば)
《アメリカやヨーロッパにはシステムがない》
― では、大人のスケーターを抱えるヨーロッパやアメリカは、ロシアの女の子たちに興味がないという意見をどう思いますか。
興味がないわけはないでしょう。ただ、ヨーロッパにもアメリカにも、よく訓練された若い才能がこれほど多く存在することはあり得ない。それを理解しなければなりません。なぜかというと、思春期が始まるまでに女の子に割り当てられている時間や、身に付けるべき高難度エレメンツの量を考えると、もう4歳から専門的に取り組み始める必要があるからです。こんなことが起こっている国は、ロシアを除いて世界中にひとつもありません。
― なぜなら、みんなが子どもたちをかわいそうに思うからですか。
なぜなら、4歳の子どもが振付や基礎体力づくりに取り組んだり、氷の上で十分な時間を過ごし始められるようなシステムがないからです。私の理解では、アメリカの子どもはトレーニングを受けるためではなく、ちょっと滑るためにリンクへ連れて来られることが多い。後になってから家族の助言を受けて、突然、真剣に取り組むと決めるのです。母親が私のところへ子どもを連れて来てこう言います。「私の娘はとてもいい子で、とても才能があります(それには基本的に賛成ですよ)。確かに彼女はまだ小さくて、10歳になったばかりだけれど、もう2回転ジャンプを全種類跳べるんです」と。そこで私は答えます。「“まだ”ではなく“もう”10歳です。あなたは世界で起こっていることを見ていますか?」とね。子どもが高いレベルの試合に出るにあたって、数々の必要なエレメンツを習得するために残された時間はそれほどないということを、両親はあまり理解していません。最長で4年です。その後、女の子は女性へと変わり始め、まったく別のアプローチと別の練習が必要になります。でも、それはまた別の話です。
そういうわけで、私は次のような自分の技術を磨いています。ただフィギュアスケートが好きで、ただトレーニングが好きだという才能ある子を“生き返らせる”のです。これが私の専門分野だと言えるでしょう。様々な選手が直面している状況から、できるだけ最大限を絞り出そうとしています。
《リュウは例外》
― アリサ・リュウには4回転ルッツとトリプルアクセルがありますが。
ええ、特殊なケースや例外というものがありますから。そのアリサや、ミシェル・クワンや、チェンのような。でも、ネイサンのシステムを作ったのは母親ですよ。彼は5歳からバレエ、体操、音楽に取り組み、氷の上で十分に時間を過ごしました。10歳になる前に1年半ぐらい私のところへ来て、個々のエレメンツを習いました。やがて10歳になると、母親に「向こうへ移らなければ僕は進歩できない」と告げたのです。しかし、この時すでに、そのさき専門的にフィギュアスケートをやっていくための身体的準備ができていました。
― あなたの論理でいくと、男子の状況も万事素晴らしいはずです。ところが、彼らはどうしても自分のポテンシャルを開花できず…
男の子を女の子と比較するのはやめましょう。成長曲線がまったく違いますから。男の子は成長が遅い。それに女の子は元来まじめで、男の子よりも注意深く、熱心にコーチの言うことを聞きます。14歳までに何でもするようになって、その後、リプニツカヤ、ラジオノワ、ツルスカヤ、ポゴリラヤの身に起きたことに直面します。身長と体重の値が悪い方向へ変わり、そこで技術的なギャップが浮かび上がり、トレーニングに対してきちんとアプローチできなくなるのです。男の子の方は最初はバカをやっていますが、やがて力がつくと、正しい練習をしていればプロフェッショナルへと転じます。ジェーニャ・プルシェンコやユヅル・ハニュウは言うに及ばず、セルゲイ・ヴォロノフだってそうでしょ。彼がトレーニングを始めた時期に一緒だった女の子たちは、今どこにいるのでしょうか。
《女の子vs.女性はフェアじゃない》
― トゥクタミシェワは沈むことなくすでにシニア8シーズン目に入っており、たえず技術を磨いていますが、それでも…
― 私は同じことを言います。女の子と女性を競わせる必要はありません。それはフェアじゃない! 私はすべての選手をとても心配しています。それに、12年も努力を重ねてきて大人になった女子選手が、4回転ジャンプを跳ぶ11歳の女の子に負けるようになるなんて、私は本当に悔しい。採点システムは完全なものではなく、いま4回転に付与されている点数は、女子でも男子でも、良いスケートの客観的基準ではありません。唯一の基準はエレメンツ遂行の質ですね。システムは、女の子が遅かれ早かれ女性に変わるという当たり前の自然現象を勘定に入れていません。これが事実だというのに!
そして、4回転ジャンプを軽く跳ぶ子どもが、たった2~3年前にトップだったスケーターに「引退すればいいのに」と言うのです。しかし、やがてその4回転を跳ぶ女の子が同じことを言われて、その次の子も同じ。それなら年齢でグループ分けして、全員にフェアに戦う機会を与えて何が悪いのですか! ええ、「あいつは怖いからあんなことを言うんだ。アメリカには誰もいないから」と考える人がいるのは知っています。私は何も恐れてなんかいませんよ! ただ分けてほしいだけです。4回転ジャンプ&テクニカルなスケートはこちらへ、女性のスケートはあちらへとね。そして、全員がそれぞれ自分の観客を獲得してほしいと願っています。そうなれば、おそらく、リプニツカヤ、ポゴリラヤ、ラジオノワに起きたようなドラマを回避できるでしょう。さて、明日は何が起きるか。どうなると思いますか?
― 2022年の北京五輪のホープのひとりに、13歳のカミラ・ワリエワを挙げたいと思いますが…
ほら、ご覧なさい。コストルナヤ、トゥルソワ、シェルバコワはすでに大変な努力を重ねてきているというのに。私たち大人には、この子たちがいつの間にか戦いの蚊帳の外に出てしまうことのないよう、必要不可欠な環境をつくる義務があるのです。私が6年前にこの話をしたとき、皆からワグナーを擁護しているのだと思われました。そして今はベルです。でも私は、ロシアの若い女の子たちと試しに競争してみる気さえありませんよ(笑)。ただ自分の仕事を、トレーニングをするだけです。
(つづく)
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