ザカリアン<ロシア姓はマリニンの妨げにならない(下)>
- アレクサンドラ・トゥルソワも5回転を跳びたいと言っています。彼女にできますか? アレクサンドラとイリヤ、どちらが先に跳ぶと思いますか?
アレクサンドラも才能にあふれ、素晴らしい野心を持った女子選手で、フィギュアスケートの歴史にその名を刻んでいます。オリンピックでは4回転を余裕を持って跳んでいましたから、可能性はあります。 でも今は昨シーズンではないし、かなりの時間が経過して別の準備が始まっています。ですから彼女が本当に5回転を跳ぶかどうかはわかりません。
- プルシェンコは、4回転アクセルを跳べる選手がロシアにいると言っていました。そんな人がいると思いますか?
いると思います。ロシアにはとても強い若い選手たちがいて、良質で健全な競争のリズムがあります。この点でロシアフィギュアスケート連盟を称賛したい。最も機能的な連盟のひとつだと思います。競技会の開催をうまく行い、適切な刺激を与えています。このなかで才能豊かな子がたくさん現れてくると思います。
- 挑発的な質問をせずにはいられません。もしマリニンがロシアで育ち、ロシアフィギュアスケートの産物だったとしたら、今のマリニンは他ならぬこのマリニンだったでしょうか?
答えられません。人は持っているものしか持っていません。今になって憶測したり、新たな考えを編み出したりすることはできません。イリヤはアメリカ生まれで、コーチ陣はこの道に精通した元フィギュアスケーターです。ワシントンに住み、そこでトレーニングしています。
- いまロシアで誰が4回転アクセルを跳べますか?
難しい問題です。わかりませんが、もしかすると練習では誰かがすでに跳ぼうとしているかもしれません。ただ、こういうジャンプを跳ぶのは現在12~15歳ぐらいの世代の選手だと思います。
- マリニンはわずか17歳であれほど難しいジャンプを跳べるとおっしゃいましたね。そんな中でISU は年齢制限を設定しようとしています。このような決定は、先ほどおっしゃった「スポーツの進化」を遅らせてしまうのでは?
この制限は女子の方に大きく関わります。個人的な考えを言えば、シニアは17歳ではなく16歳からであるべきです。4回転アクセルは現時点では純粋に男子のエレメントであり、女子が成功させるまでには数世代かかるでしょう。男子のばあい年齢は特に重要ではありませんが、高難度のエレメンツは幼いときから準備する必要があります。同じ4回転アクセルでも20年経ってから跳ぶのはずっと難しくなります。それでもハニュウとドミトリエフは近いところまで行ったのですが。
- つまり、年齢制限の引き上げは、男子にはそれほど影響しないと?
私はそう思っています。年齢制限の引き上げは女子の方に関係してきました。
「アメリカの選手として出場するようになれば、どんな名前もルーツも「クローズ」になる」
- あなたとイリヤはロシア語で話しますか?
ときによります。イリヤはロシア語と英語でうまくコミュニケーションをとります。ロシアのファンも応援してくれるなら歓迎しますよ。
- 情緒やメンタリティの面ではどうですか。ロシアルーツの純粋なアメリカ人ですか? それともロシア的な何かを持っていますか?
それは彼の両親の方がきちんとお話しできそうです。私は一緒に仕事を始めたばかりなので、それほど人生の瞬間を深く掘り下げることはできなかったと思いますから。ちなみに、25年間一緒に仕事をしてきたジェーニャ・プルシェンコがどんな人かと聞かれたら、答えることができますよ。
- アメリカ人はロシア姓を持つマリニンをどう思っていますか? もしくは誰も気にしていませんか?
マリニンはアメリカ市民です。中国系のチェンと同じように思われています。アメリカは多民族国家です。たとえばニコール・ボベックはチェコ系で、ブライアン・ボイタノはイタリア系。ここに、この国の独自性があるのです。アメリカの選手として試合に出るようになれば、どんな名前もルーツも「クローズ」になる。
- 言い換えると、もしマリニンがオリンピックで成功を収めた場合、その苗字が国民的英雄になることを妨げることはまったくないと?
まったくありません。敢えて言いますが、ロシアのファンの中には彼を心配する人も出てくるでしょう。イリヤはアメリカ生まれのアメリカ市民ですが、家では両親とロシア語で話しています。彼の中にはロシア的なものもあって、物わかりのよい、興味深い、とても良い青年です。
(おわり)
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